役員報酬の決め方と留意点
1. 役員への利益還元方法
会社設立後、業績も好調で、利益が確保できる目途が立ったとき、この利得を役員であるご自身に対しいかに還元するかについて検討されるかと思います。「役員=株主」である場合、この還元方法には、大きく役員報酬を支給する方法と配当金を支払う方法の2つがあります。
ただ、配当は法人の損金(いわゆる経費)とならないため課税上不利となるケースが多く、また、配当金を出すことが企業価値(相続税評価額)を引き上げる要素になるため、相続税対策上のデメリットをも生じさせます。
そのため、多くの中小法人ではこのオーナー役員への利益還元方法としては役員報酬を支給する方法が主に取られています。
2. 役員報酬による支給でのデメリット
では、会社の損金になるからといって、経営者は会社で稼得した利益を全て役員報酬として受け取ってしまってよいものでしょうか。
利益を全て役員報酬に回してしまうと、会社の事業資金が不足するうえ、何よりご自身の税金(個人所得税)や社会保険料の払い出しが増え、全体として支出が増加してしまう状況が容易に想像できるかと思います。
役員個人または会社に多額の資金が必要となる理由が特にない限り、経営者としては、「個人法人全体として税金等の払い出しが少なくなるように」と考えることが通常かと思います。
3. 最適なバランスを見つけるには。
この両者の支出のバランスが最も良くなる地点(最も税金の払出しが少なくなる点)をシミュレーションして解を求めることは可能です。
この計算の中では、法人税と所得税の税率の違い(法人税・市県民税は合わせて約27%(800万円以下の部分は約19%)の定率で事業税が損金扱いできるのに対し、所得税は住民税と合わせて約15%から約55%の段階税率)の他、社会保険料の負担額(法人個人双方)なども考慮されます。
計算の詳細につきましては税理士等にご相談ください(結果は一律に定まらず、税率や料額、利益水準や資本金額、役員や扶養家族の数などに応じて適切な報酬水準が異なってきます)。
このシミュレーションをしてみると、役員報酬は法人にとって損金になるからと無闇にその金額を上げても結果として節税にはならず、法人および個人の税金等の負担を合わせて考慮し、バランスの良いところで適切な報酬金額を決めることが重要であることがよく分かります。
ところで、役員給与(役員報酬)を法人税上損金とするためには、従業員に対する給与とは異なり、次のとおり、定期同額であること、確定額を管轄税務署に対して事前に届け出ることなどの要件を満たした支給であることが求められておりますので、留意する必要があります。
① 定期同額給与
定期同額給与とは、支給時期が1か月以下の一定の期間ごとであり、かつ、事業年度内の各支給時期における支給額が同額であるものを言います。すなわち、株主総会等で例えば毎月100万円と決議された以降は、次回の決議まで、この金額を原則毎月変えずに支給する必要があります。
給与金額を改定したい場合は、会計期間開始の日から3ヶ月を経過するまでに開催される通常総会で改定を決議する他、役員の職制上の地位の変更に基づく改定や経営状況の悪化による減額改定を、期中に臨時総会で決議することによって行なうことができます。
② 事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、所定の時期に確定額を支給する旨の定め(株主総会決議等)に基づいて支給する給与で、その内容を管轄する税務署に事前に届出をしているものを言います。
当該届出の期限は次のうちいずれか早い日となります。
- ⑴ 決議をした日から1か月を経過する日
- ⑵ 会計期間開始の日から4か月を経過する日
これは役員に支給する賞与に相当するものと言えますが、損金とするためには、決算が確定した後、その結果に基づき事後的に金額を決定することは許されておりません。
③ 利益連動給与
利益連動給与とは、利益に関する指標を基礎として算定される給与ですが、同族会社には認められておらず、また、適用が有価証券報告書を提出する公開会社に限られているため、中小法人には事実上無縁の制度と言えます。
本制度を採用するためには、有価証券報告書に記載される年度利益を基礎とした給与算定方法を客観的に定め、これを開示する等の要件を満たす必要があり、実務上手続きが煩雑であり、利用実績は多くないのが実情です。
実務上最もよく利用されている①の定期同額給与であっても、株主総会決議を経ずに金額の変更ができないといった制限があり、手続き上の煩わしさは多少なりともあります。
いずれにせよ、ご自身を含め、役員に金銭を支給する場合にはその金額およびその支給の仕方につき十分ご留意ください。
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